①・②に続き、今回でひとまず最終回のディテールへのこだわり③
最後はその他こだわりが詰まった細部のご紹介です!
プロポーション 〜部材選定〜
1、フラットバーデザインの部材選び
はな工房のフラットバー手すりは
笠木:FB9×38
柱:FB12×38
横桟:FB6×32
の組み合わせを基本軸として使用しています。
フラットバー手摺が世の中で主流ではなかった頃、どのような手すりがオシャレに見えるだろうかと様々な美術館や店舗を巡り実際の大きさを見て回ったものです。どこも様々な部材を使っていてとても迷ったのを覚えています。ただ、一緒に見に行ったスタッフ全員が【38㎜幅がキレイ!】となったことも驚きでした!!
フラットバーの規格で38(以下すべて単位は㎜)に近いものといえば《25・32・38・44・50・65》と続き、32・38・44の3種類が多く使用されていました。なかでも38は華奢すぎず重厚すぎない、狭くも広くもないちょうど美しく見える幅だと私たちは感じました。(特に美術館では多く採用されていました)と同時に、厚みは9㎜がちょうど良いことにも気づきました。
ただ、全てをFB9×38で制作すると平面的で、せっかく見るアングルによって見え方の変わる平たいフラットバーの良さを引き出せない。それならばと、それぞれの部分で少しずつサイズを変えることにしました。強度と安定感が欲しいので柱はひとつ太い規格のFB38×12。中桟は幅も厚みもひとまわり小さいFB32×6です。
上記の写真でもわかるように、強弱があることでプロポーションが際立って、スチール手摺本来の重厚さとスタイリッシュさが表現されていますね。
部材選びは奥が深く、好みはもちろん強度も関係してくるため、考え方によってそれぞれの正解があると思いますが、私たちはこの部材が一番美しく見えると考えています。(当然ですが手すりの大きさや設置場所などで、他の部材を使用する事もあります!)
2、装飾デザインの部材選び
装飾デザインタイプやステンドグラスデザインタイプも基本的に類似の部材を使用していますが、この2タイプに共通して気をつけている事は一般住宅に合うシンプルな装飾手すりを心がけています。もちろん豪華なデザインも制作しますし、お客様の好みも様々です。ただ出来るだけ『くどさ』は避けたいと考えています。
空間にはジャンルがあります。【ナチュラル・モダン・アンティーク・プロヴァンス・カントリー・ナチュラルなど】そしてそこに住まわれるお客様の生活スタイルがあります。それぞれの好みがあってそれぞれのジャンル間での相性があります。はな工房ではたくさんのお客様の好みに出来るだけ寄り添って、どの雰囲気にも合いやすいデザインや部材選定を考えて手すりを制作しています。
塗装工程
続いては、塗装工程についてです。
この6枚は、特に塗装に関する重要な工程をピックアップしました。吹き付け(スプレーの様なイメージです!)で塗装するため、細かな傷やスリ跡は必ず塗装後に浮かび上がってきてしまいます。特にフラットな部分は繋ぎ目が目立ちやすいのです。
【① 油膜をとりペーパーをあてる】
いわゆる下準備です。今まで何度かお電話で「他のところで制作してもらったアイアン手すりの塗装が剥がれてきた!」とご相談を受けたことがあります。これらのほとんどが油膜を十分に拭き取っていないからだと考えられます。アイアンと塗料のあいだに油膜がある状態だと密着度が不十分で剥がれてきてしまうのです。これは、確実な油膜取りと、ペーパーでうっすら傷をつけて表面に凹凸を作り塗装の密着度を上げることで防ぐことができます。
【② サンダーで擦った後処理】
制作していく中で溶接は必須項目です!キレイに溶接して見せる部分もありますが、キレイにすってやる事でキレイな段が生まれ美しい見た目になるからです。写真ではわかりにくですが、溶接後【荒ズリ→バフ磨き→ワイヤーがけ】をおこなっています。
【③ 塗装前はピカピカに】
完成し今から塗装・・・の前にもういちど油膜取りを行います。どうしても作業をしていると軍手についた油が付着するんですね。
【④ つなぎ目をなめらかに】
ここに一番神経をつかいます。先ほどお話しした吹付塗装で浮かび上がってくるであろう傷やスリ跡のケアです。それを消すためにはまず塗装前パテをぬります。パテが乾いたらペーパーで滑らかになるまでこすり、プライマー (サビ止め) をかけます。プライマーが乾いたらまたペーパーをあて、、、触ったときの感覚を大切にしながら納得いくまで滑らかに。もちろんプライマーの厚みも気にしながら。この作業をすることで傷やスリ跡がかなりキレイになります。
【⑤ 塗装直後】
プライマーのあとは2液性ウレタン塗料で仕上げです。過去に焼き付け塗装もしていたのですが、先ほどの傷やスリ跡の事まで考えて塗装する焼き付け塗装業者さんはなかなかおられないと思います。はな工房で塗装させていただく方が最後まで責任をもって美しく仕上げられるという思いから、現在では工房で全工程を管理しています。(2液性ウレタン塗料はプロユースの硬化剤が含まれる耐久性のある塗料です)過去には焼き付け製品が取付ビスを打ち込む際にパリッと割れた経験もあり、納品後のメンテナンスという観点から見てもウレタン塗装がよいという結論になりました。
【⑥ 設置後】
そしていよいよ設置!これまでの長い工程を経て、やっとお客様の元へお届けできます!
2024年6月現在、標準で扱っている色は【黒・白・アイボリー・グレージュ・グレー】の5色です。実ははな工房には1級のカラーコーディネーターがいます。定番の黒・白をはじめ、空間に馴染みやすいよう美しい色目をセレクトしています。(もちろんこれら以外の色もオーダーいただけます!)
コーナー加工(L字部分)
ここからは細部の加工について、たくさんの写真と一緒にご紹介します!
2階や3階、ロフトやスキップフロア、小上がりなどでよく見かける吹き抜けの、L字部分の仕上がりです。(先ほどの塗装からの流れでこの写真をみるとご納得いただけるでしょうか)
このL字加工と前回の「こだわり②〜分割加工〜」を合わせて様々な形の手すりを制作しています。
少しめずらしい2方向に曲がった吹き抜け手すり【Z型!と勝手に命名】
スタート部
こちらはスタート部分!先ほどと同じく、塗装の仕上げ工程の影響が大きい部分です。
アールは曲げているため、どうしても細かな曲げ跡や傷が残ります。せっかくキレイに曲げたとしても、どこかを怠ると美しい手摺には仕上がりません。
装飾手すり(写真中央)のアール曲げは部品として単体で曲げてから、本体と溶接で繋げます。溶接して擦って、、フラットバーの繋ぎ目と同様の手順で滑らかに仕上げていきます。
天井への固定
お家の構造・間取りによって、階段で途中に天井や梁が干渉してくる場合があります。その時に有効幅を減らさず取り付ける方法として天井へ留める加工を行います。
シンプルなものには余計なことをしない!ことが違和感減らすために大切です。単純にビス穴を空けて固定しているだけ。それだけです。
がしかし、天井には若干の勾配がついています。また、取付位置によって多少の寸法誤差が生まれます。コーナー下地やパテ、クロスで厚みも出ます。踏み板が水平でないことも。
これらを考慮しながら最終寸法を予想して、少しのクリアランスを考えて制作します。隙間には薄いライナーを入れて取り付け完了です。
一見単純にみえる
シンプル!余計なことをしない!!のにも、
手間ひまが掛かかっているんです。
バットレス(補強)
つづきまして、バットレスをご紹介します。
ゴシックの聖堂建築において開発された『フライング・バットレス』をもとにした補強方法です。言わば横から支える!という手法。長い吹き抜け手すりや、2F階段吹き抜け手すりの片かべ留めの場合に多く使用します。
強度・横揺れは下地と深く関係してきます。【吹き抜け手すりの下地記事】←詳しくはご覧ください。
下地を広範囲に入れても厚みが薄いと強度は落ちる。分厚い下地でもパイン材などではそもそも柔らか過ぎて強度が出ない!とても深刻な問題です。
そんな時にこのバットレス加工をします。横揺れを軽減するには横の厚みが重要なので、単純に横を広げます!この方法でかなりの揺れは軽減できます。
装飾手すりの考えかた
はな工房はガーデニング製品の制作から始まっています。もともと海外志向が強く、ヨーロッパをはじめ沢山の建築物などの装飾品を研究してきました。そのこともあって、はな工房の装飾手すりは一般住宅に合うシンプルな装飾をモットーに考えられています。ワンポイントでも広範囲でも、きっとお家に似合う手すりが見つかると思います!
ステンドグラスの魅力
手すりに彩りが生まれるステンドグラス。同じ色や模様ガラスでもカッティングによって1枚1枚微妙に表情が異なるのが大変面白いところです。色・表面の模様・内部の気泡など、ステンドグラスの魅力はまた別のページでも解説してみようと思います。
ガラスの固定については昔の窓ガラスと同じ手法で、ガラスとアイアンの接触部分をシリコンコーキングで固定しています。ゴムのように固まるため、手すりの揺れで割れる心配はありません。
無機質なアイアンに透き通ったカラーが加わることで、毎日に彩りが生まれます!なかなか他にはないステンドグラス×アイアン手すりをお家のアイテムとしてぜひご活用下さい。
はな工房のオリジナルデザイン
最後はオリジナルデザイン!文字通り1からデザインしたアイアン手すりです。小さなものから大きなものまで、様々な形で制作しています。ここでも部材選びがとても重要な役割を果たします!それぞれのサイズを変え、主張の強弱をつけることでデザインを引き立たせています。
「お家のメインだから少しこだわりたい!」「自宅でピアノ教室をしているから看板かわりに!」と言うお客様からよくご依頼頂きます。
まとめ
さて、①・②・③と続いたこだわりのディテール(細部)について!すごい文章量になってしまいました。ここまでお読みいただいた皆様、ありがとうございました。3回にわたって書き続けた理由は、きっちりと制作していることを実物を見る前でもお伝えできたら!と思ったからです。
工房にお越しいただいたお客様から「以前別のアイアン業者さんで製品を見せていただいたとき、製品がまっすぐではなく途中が歪んだり曲がっているように感じました。溶接部も全てではなかったので心配だったんです」と伺って、私たちが日々心がけていることをもっと発信せねばと感じたんですよね。
いまや、アイアン手すりはただの構造物ではなく、インテリアの要素も含んだ重要なパーツとなりました。あとになって後悔しないアイアン手摺をお選びいただくヒントになればと思います。
追記〜今回は手すりディテールでしたが、この手すりの高さを合わせた写真の様に、制作前から始まる細部へのこだわりも沢山あります!また書きます!!